「名誉挽回」は正しくとも「名誉を挽回する」は間違いである。
「汚名挽回」を持ち出すと、お決まりの如く「汚名を取り戻してどうするんだ!」と言う者がいるが、「挽回」とは「取り戻すこと」ではないし、「名誉」だって「挽回する」ことも「取り戻す」こともできないよ。
「挽回」が「失ったものを取り戻すこと」ならば、、、
多くの辞典では「挽回」を「失ったものを取り戻す。元に引き戻す。」としているが、これが間違いの元である。
○「難病を克服して、人生を取り戻す」
×「難病を克服して、人生を挽回する」
○「落とした財布を取り戻した」
×「落とした財布を挽回した」
○「盗まれた車を取り戻した」
×「盗まれた車を挽回した」
○「今にも去っていきそうな恋人を引き戻す」
×「今にも去っていきそうな恋人を挽回する」
○「夢見るママを現実に引き戻す」
×「夢見るママを現実に挽回する」
これらのことから、「失ったものを取り戻す。元に引き戻す。」との解釈は間違いである。
名誉挽回と名誉回復
「名誉」の場合、「回復」も「挽回」もどちらもいうのだから、この違いを追及すれば、より「挽回」の意味が明確になる。
「名誉回復」は、単に、結果をいっているだけだが、「名誉挽回」は「名誉」を回復する過程で争いが有ったことも窺わせる。
従って、「挽回」の解釈を単に「失ったものを取り戻す。元に引き戻す。」とするだけでは不十分である。
挽回とは
「挽回」とは「勢力争いや駆け引きの中で、一旦不利になった立場・状況を優位に戻すこと」である。
つまり「挽回」は、「争いや駆け引きを伴う事柄」を表す言葉や、「争いや駆け引きのもと」を表す言葉に付き、「挽回」の対象となるのは、「争いごとや駆け引きでの優位性」であり、その「優位性を取り戻す」のである。
2007/01/29 9:25 追記
決して、「名誉を取り戻す」ことや「汚名を取り戻す」ことではない。
○○挽回とは
「名誉挽回」とは「名誉を守る(回復、奪還)ための駆け引き(の中)で、揶揄する連中(の意見・主張)を退けて優位な立場に就くこと」であり、「風呂を沸かす」と同類の表現である。
「劣勢を挽回する」とは「駆け引き(の中)での不利な立場を優位な立場に変えること」であり、「水を沸かす」と同類の表現である。
「汚名挽回」とは「汚名を着せて、あるいは、汚点を論って排除(失職に追い込むなど)しようとするものとの駆け引き(の中)で優位に立つこと」である。
「名誉」は「記すもの」、「称えるもの」であり、取り巻く人々の思考・認識の問題なのだから「引き寄せたり取り戻したりするもの」ではない。
飽く迄も、「引き寄せ」たり「取り戻す」のは「駆け引きでの優位性」である。
注視すべきは、「○○挽回」の場合は、「駆け引き」の対象が「○○を巡る・纏わる争い」、あるいは、「○○に関する争い」であることを表しているのに対して、「劣勢を挽回」の場合、「劣勢」は「駆け引き」そのものの状況を指しているに過ぎない点である。
この点に気付かなければ、「劣勢を挽回する」が大辞林に載っているといわれると口籠ることになる。
結論:
「沸かす」のは「風呂」ではなく「湯船の(中の)水」である。
「挽回する」のは「名誉」ではなく「駆け引きでの優位性」である。
関連:
蛇足:
あからさまに「あんなヤツ、見返してやれ!」といっては角が立つが、「頑張って名誉挽回しろ!」といえば通りが良いということでは?
あるいは「してやったり」の代わりに使っているだけか?
結局、「名誉挽回」の「挽回」には、本来の「挽回」の意味は求められていない、ということだろう。
追記:
(2006年12月15日 11:02)
○「工期の遅れを取り戻す」
○「工期の遅れを挽回する」
前者は、事実・結果を端的にいっているだけだが、後者は、「時間との戦い」「時間との勝負」を念頭に置いた表現である。
この点を無視(というか、気付かず)して、安直に「(挽回)=(取り戻す)」とするのは明らかな間違い。
公開日: 2006/12/13 14:57